一般的に、子どもたちは自分が誰なのか、そしてどこからやってきたのかという疑問を抱くことがあります。これを知ることで、自分という存在や、「家族」というものの意味を理解できるようになります。ドナーチャイルドにとって、「赤ちゃんはどのように生まれるのか」というストーリーは、一般的に親が子どもに語るものとは少し異なります。ドナーの助けによりお子さんを授かった場合、お子さんにその事実をどのように伝えるか、早い段階で考えておくことが推奨されます。
なぜ、お子さまにドナーの助けにより授かったと伝えるべきなのでしょうか
これを読んでいらっしゃるということは、(これから生まれてくる)お子さまに対して、あなたはドナーの助けによって授かったのだと伝える決心をされたのでしょうか。でも、それが正しいことなのかまだ迷っていらっしゃるのだとしたら、あるいはただ誰かにそれが正しいことだ、と言ってほしいのだとしたら、以下に挙げる理由をご覧になってください。
- 遺伝子鑑定やSNSなどを利用して家族の歴史を紐解くのは、こんにち、これまでになく容易になっています。そのため、お子さまに対して真実を告知することが推奨されています。いずれにしても、きっとその事実を知ることになるのですから、他人に知らされるより、自分の親から直接その情報を知らされる方がいいはずです。
- 正直さと敬意をもつことが、関係を築くには常によい出発点であり、これは親と子の関係であっても同じです。
- 親と子での明らかな違いにも説明がつき、納得がいくものとなります。
- お子さまが成長する過程で、自分の人生の物語にドナーの助けによって授かったという側面を取り入れることができ、それを自分として感じることができます。
- もしも必要になったときには、お子さまの遺伝的な出所の完全な病歴(あるいはそうしたものがないということを)を医師に伝えることができます。
真実告知/テリングはいつから始めるべきですか?
お子さんが赤ちゃんのうちに、「ママ(とパパ)の大きな夢を叶えてくれた優しいドナー」の存在を伝える親御さんもいますし、もう少しお子さんが大きくなるまで待つ親御さんもいます。お子さんへの伝え方やタイミングには個人差があり、これは家族のカタチによってもさまざまでしょう。レズビアンの両親やシングルマザーのもとで暮らす子どもたちは、他の子どもの「父親」という存在に気付いた時点で、幼いうちから質問を投げかけてくる場合もあります。異性のご両親が提供精子によりお子さんを授かったケースも同様に、お子さんに話をする時がいずれやってきます。一般的には早ければ早いほど良いとされ、家族研究の専門家であるケンブリッジ大学のSusan Golombok教授も、この考え方を支持しています。
早めに告知を始めることで、親と子の両方にとって以下のようなメリットがあります。
- ストーリーを率直に伝えることができます。初めは、何を言えば良いのか、ドナーのことをどう伝えれば良いのか、と迷うこともあるでしょう。お子さんが赤ちゃん頃から告知を始めることにより、ストーリーを伝える「練習」を重ね、お子さんが興味を示し、質問をし始める頃には自信を持って話すことができるようになります。
- お子さんとの間で秘密事をつくらずに済みます。ドナーの助けによりつくられたご家族を支えるイギリスの団体、Donor Conception Networkによると、お子さんはドナーの助けにより生まれたという事実を伝えられた瞬間のことが記憶にない状態で育つことが理想的だとされています。ドナーのことを初めから率直かつ正直に伝えることで、真実告知が1回で終わる「出来事」ではなく時間をかけて行われる「プロセス」となり、何か隠し事をされていたという気持ちをお子さんが抱くこともなくなります。
- より良い親子関係を築ける可能性があります。Susan Golombok教授の研究では、幼いうち(就学年齢に達する前、それもできるだけ早いうちが望ましい)にドナーのことを知った子どもたちの方が、成長していく中でより良好な親子関係を築いており、ドナーの助けにより生まれたという事実に対してもポジティブな気持ちを抱くことが示されています。
お子さんに告知を行った親御さんの体験談
ドナーチャイルドの親御さんは多くの場合、ドナーのことや、自分たちがどのように家族になったのかを伝える際に、様々な工夫を凝らしています。次に紹介するTEDトークでは、哲学者・社会科学者であるVeerle Provoost氏が、ドナーチャイルドと親御さんを対象に行ったインタビューで得られた事例を紹介しています。
ドナーについてお子さんにどのように伝えるべきかと悩んでいる場合は、他の親御さんの事例を参考にしてみると良いでしょう。以下に挙げるブログ記事では、ドナーチャイルドの親御さんによる体験談をご紹介しています。ご自身の体験をもとに、ドナーについてお子さんにどのように伝えるべきか、アドバイスをいただきました。
お子さまからの反応には、どういったものが考えられるでしょうか
お子さまの年齢やどのように伝えられるかにもよりますが、反応は「おやつ食べてもいい?」というものから、「精子ってどんな形をしているの?」といったものまで様々でしょう。幼い子どもたちは遺伝的特徴について心配するのは稀ですが、大きな子どもたちはもっと深く考える傾向があります。もしお子さまが深く考えていらっしゃるようでしたら、お子さまの気持ちを尊重し、その意味が呑み込めて、もっと聞きたいことが出てきたときに、改めてその話をすることが大切です。
ドナーの助けにより家族をつくることについての、子ども向けの絵本
お子さんに告知を行うタイミングになりましたら、ドナーの助けにより家族をつくることや、さまざまな家族のあり方について説明した子ども向けの絵本を活用するという方法もあります。ここでは英語の絵本をいくつかご紹介していますが、様々な言語で、このテーマについての素晴らしい絵本がつくられています。あるいは、ご自身が妊娠に至るまでのストーリーやお子さんへの思いについて、お子さんと一緒に読めるスクラップブックや写真集など、オリジナルの本を作ってみるのも良いでしょう。
ドナーチャイルドに関するおすすめの子ども向け書籍
- Happy together, a sperm donation story(Julie Marie著)
- Our story, how we became a family(Donor Conception Network著)
- My family and me: a baby memory book for donor kids(Kim Kluger-Bell著)
- You are my wish come true(Marianne Richmond著)
- The pea that was me: a sperm donation story(Kimberly Kluger-Bell著)
- The magic of you: helping tell children about donor conception or surrogacy (Sensitive Matters著)
お子さんにドナーのことを伝えるにあたってのアドバイス
お子さんにドナーのことを伝える方法について、アドバイスを求めるのは当然のことであり、大いに役立つことです。しかし、お子さんのことを最もよく知っているのは、親であるあなたです。つまり、どのように告知を行うべきかということは、あなた自身が最もよくわかっているはずだということを念頭に置いてください。
ここでは、お子さんにドナーのことを伝えるにあたっての一般的なアドバイスをご紹介しています。
- あなたの家族や、家族のあり方に誇りを持ちましょう
- 常にオープンな会話を心がけましょう
- 何があっても、お子さんの親は自分であるということを忘れないようにしましょう
- お子さんご本人のストーリーを尊重しましょう
あなたの家族や、家族のあり方に誇りを持ちましょう
今日においては、ドナーの助けにより生まれたお子さんの親御さんたちがオープンな姿勢を保ち、ご自身の家族について誇りを持つことが強く推奨されています。ドナーの助けによりお子さんを授かったという事実を大きな問題として扱うのではなく、至って普通の事としてお子さんや他の人に話しましょう。これにより、お子さんもマイナスの感情を抱くことなく、自身のストーリーに誇りを持つことができるでしょう。「自分がどこからやってきたのか」を知ることは、自分自身のアイデンティティを形成する上で重要な部分を成します。彼らは強く望まれて生まれてきた存在であり、(両)親の夢を叶えてくれたもう一人の人物もその子の誕生を願っていたからこそ、今この世に存在しているのだと伝えましょう。多くの人々に強く望まれて生まれたということ、これはまさに誇りに思えることではないでしょうか。
常にオープンな会話を心がけましょう
お子さんへの告知は、継続的に行う「プロセス」です。お子さんが成長するにつれて、新たな疑問や感情が生まれます。それらに対処できるよう手助けをするのが、親としての重要な役割です。すべての質問に答えられない場合もありますが、常にオープンな態度で、正直に話をすることで、お子さんも疑問や気になることを親御さんと話しやすくなるでしょう。知っている情報を共有し、ドナーについて前向きに話すよう心がけてください。ただし、いつかお子さんがドナーとの連絡を試みる可能性を考慮し、必要以上の話や、ドナーについてお子さんが非現実的な期待を抱いてしまうような話はしないようご注意ください。
何があっても、お子さんの親は自分であるということを忘れないようにしましょう
親子間に遺伝的な繋がりがないと知った時に、お子さんがどのような反応をするだろうかと心配な方もいらっしゃるでしょう。もちろん、この事実を知ることで、お子さんに疑問や歯がゆい気持ちが生じる可能性は十分にあります。これは特に、早い段階でお子さんに告知をしなかった場合に起こりがちなことです。しかし、家族を結び付けているのは遺伝的な繋がりではなく、社会的な繋がりであるということを忘れないでください。日常を共にすること、親子間の愛情、そして互いにとって大切な存在であることが、家族の絆を培うものなのです。もしもお子さんが、ドナーや、同じドナーの提供精子により生まれた「異母兄弟」を探したいという好奇心を抱いたとしても、お子さんにとっての家族はあなた(がた)です。ドナーについて知ることで、あなたのことを親として見なくなったり、あなたへの愛情をなくしたりすることはありません。
お子さんご本人のストーリーを尊重しましょう
お子さんが幼いうちは、その子の誕生のストーリーをどのように話すかは、親であるあなたに委ねられています。また、小学校の先生など、他の人に話をすることも有意義となる場合があります。授業で初めて性教育が行われる際に、その子のストーリーがひとつの家族のあり方として取り上げられるといったこともあるためです。(但し、日本では多様性家族についての理解がまだ十分に浸透していないこともありますので、第三者に話す際には慎重にご検討ください。)しかし、子どもはやがて成長し、いつ、誰にドナーのことを話すかを自分自身で判断するようになります。この段階に至ったら、あなたが話すストーリではなく、お子さん自身のストーリーとなります。親としてこれを尊重するとともに、お子さんが自分自身で形づくり、他の人々へ伝えるストーリーを認めてあげてください。
真実告知/テリングについて、他にもアドバイスが必要でしたら、「ドナーチャイルドであることを子どもにどう伝えるか」のブログ記事もご覧ください。